今、趣味のオンライン朗読のレッスンで、小川未明の「月夜とめがね」という短編の練習をしています。
15~17分程度のお話しで、ある月夜の晩に、緑に被われた町の一人暮らしのおばあさんに起きる不思議な物語です。
練習が始まったときは、全体のストーリーと情景描写、3人の登場人物(訪問者は人間とはいえないのですが)のキャラクター設定をどんな風にしようか、ということにとらわれていましたが、練習が進むにつれて、この物語の不思議性と完成度の高さに驚かされています。
月夜とめがねの登場人物は3人です。
おばあさん
おばあさんのこれまでの人生について語られる箇所はありません。
ただ一人暮らしであること、自分の若い頃のことや孫のことなどを考えながら夜窓のところに座ってランプの灯りで針仕事をしています。
めがね売り
最初の訪問者のめがね売りはサイズ感が測りかねるミニサイズです。おばあさんの家の窓からやりとりする際に下から見上げるような位置になっていますが、おばあさんの家の窓が二階か、または下が崖になっているかなどの説明はありません。おばあさんにめがねを売り、あっさり去っていきます。
美しい娘
次の訪問者の娘は、実は蝶の化身です。本人の申告によると町の香水工場で働いており、指を怪我したので手当てをしてほしいとおばあさんの家の戸を叩きます。
この3人によって物語は進んでいきますが、文章全体にもやがかかっているような感じで、夢と現(うつつ)の境界がありません。
読み進めるごとに、まるでこの世の中が夢か現か判然としなくなってくるようです。
子供の頃、今自分はこの世に生きているのか、もうとっくにこの世はなくなっていて、自分は何者でもなくなっていて「自分が人間である夢を見ているのではないか」とよく寝床で不安になりました。
月夜とめがねは、そうした子供時代の不安な気持ちも思い起こさせるような短編です。
この題材の朗読は12月に仕上げる予定です。
仕上がったら連れ合いと一緒にやっている朗読YouTubeに投稿しますので、そのときは聞いて頂ければ嬉しいです。